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【S】―エス―01

第33章 計画

 ◇3


 オレンジ色に染まる空。遠く山の瀬には規則正しく鉄塔が並ぶ。


 12年前に焼け落ち、今はもうなき東雲家の屋敷跡に立つ人物。辺りをぐるりと見渡した彼は、真っ直ぐ地下の入り口を目指す。


 階段を下り見えた薄暗く無機質なそこは、かつて瞬矢と刹那が造り出され、同時に兵器としての実験を受けた研究所のあった場所。


 向かって右側の壁には、埃まみれの揚羽蝶の写真が額縁に入れられ飾られている。


 床にガラス片が散乱したコンクリート造りの一室で、少年は立ち止まり瞼を閉じた。ゆっくりと、深く息を吸う。


 当時の光景が、瞼を透けて伝わってくる。


 埃っぽい空間で少年が感じ得たそれは、自身とその同胞が造り出されるに至った経緯。


(そうか……、そうだったんだ)


 色褪せた蝶、冷たいコンクリート造りの壁、散乱したガラス片――。


 夕刻を報せる曲がどこからともなく反響するように聞こえて、彼を現実に引き戻す。


 踵を返した少年はそれらに軽く一瞥をくれ、屋敷の地下を後にする。


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