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【S】―エス―01

第2章 予兆

 その人物は、薄いライトグレーのコートを纏っていた。


 コートの上からでも分かる、線の細い体。人形のような白い肌に、妖しげな笑みを浮かべる。


 薄く形のよい唇からは、男とも或いは女とも見てとれる【何か】があった。


 見開かれた男の両目は恐怖に満ち、あり得ないものでも見ているかのようだ。


「おっ……お前は、――っ!?」


 男が言いかけた時、その人物は口元をわずかに歪め自身の言葉で遮る。


「うるさいよ」


 それは、怒っているとも笑っているともとれる――だが、感情のこもらない平坦な口調。


 すらりと前へ突き出された右手が、触れる事なく男の体の自由を奪う。


「ひっ……! 助け……」


 指の先1本まで強張らせた男の絞り出す言葉に人物は小首を傾げ、可笑しなものでも見るかのように嘲笑する。


 それはあまりにも非情で、どこか悲しげだった。


 相変わらず口角をつり上げ曖昧な表情を残したまま、人物は言う。


「『助けて』? 笑わせないで。もとはと言えば、君達がいけないんだよ? 僕を――」


 言いかけた言葉を飲み込むと地面を蹴り瞬時に大きく空いていた間合いを詰め、男の懐へと潜り込む。
 

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