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【S】―エス―01

第37章 傀儡

 尚もこめかみへ銃口を向け続けているリンの肩に、空を撫でるかの如き所作で手を置く。そして彼女の耳元へ顔を寄せ、


「リン、やめろ」


 静かな口調で指示し、こめかみに向けていた拳銃を片手でゆっくりと下ろさせ、彼女の手の内から取り上げた。


「……いい子だ」


 そして刹那をちらと見やり、耳元で再び何かを囁く。


 するとリンは、己の意思とは思えない足取りで刹那の眼前へと歩み出る。


 目の前で立ち止まると、彼女はその虚ろな黒い双眸で刹那を見下ろす。


 だが何も言葉を交わすことなくゆっくりと屈み、床に落ちていた携帯電話を拾い上げる。


 踵を返し、携帯を差し出すリンを引き寄せ、手中に収めた。彼女はなんの抵抗もなく、ただ口の端からわずかに息を漏らすだけ。


 刹那の携帯を取り上げたハロルドは、履歴から最後に発信された番号をリダイアルする。


 ほぼ無音に近い場所。コンクリートが打ちっぱなしの部屋に、刹那の耳にも届くほど反響し、機械的な呼び出し音が鳴る。


 しばらくして鳴り続ける呼び出し音がぷつりと切れ、携帯の向こう側から訝った声が聞こえた。


『……刹那?』
 

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