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【S】―エス―01

第2章 予兆

 頭(こうべ)を垂れたことで左頬に付着した鮮血が滴り、まるで涙のようでもあった。


「あと、3人……」


 頬に血の涙を滴らせながら、人物は譫言(うわごと)のように呟く。


 コートに飛散した血を特に気にするでもなく、ゆっくり踵を返し天を仰ぐ。そして、たった今その手で人を殺めたとは思えない、至って冷静な声で言った。


「もうすぐ……、もうすぐだ。待ってて――」


 舞い落ちる桜の花びらを残し、その身に重き業を背負った人物の姿は、再び夜の闇へと溶け込んでゆく。





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