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【S】―エス―01

第6章 我が目に棲む闇

 ◇


 ――薄暗い廊下。今どの辺りを歩いているのかすら分からなくなっていた。


(やはり、こういう場所は慣れないな。あの頃を思い出してしまう)


 やがて、薄暗い闇の一部を切り取ったかのような光が差す。


 ――【第2研究室】。


 そう書かれたドアの中を覗くと、長い髪をひとつに纏め白衣を着た女が1人、試験薬をマウスに投与していた。


 それを見た彼はくすりと笑みを浮かべ、気配を殺したまま室内へと入る。


 途中、プラスチックの透明ケージの中でせわしなく歩き回る白いマウスを見て、彼は微笑み近寄ると金網を開ける。


 後ろ足で立ち上がり、きょろきょろ辺りを見回すマウスをそっと手で抱えると、すぐ近くの壁に凭れ開口した。



「久しぶりだね。――『先生』」


 突然の人の気配と投げかけられた言葉に、白衣の女は驚き振り返る。茜の父親の元同僚、渡辺 真理だった。


「せっ……!」


 『刹那』そう言おうとしたが、言葉に詰まってしまう。後ずさり慌てた為に、試験管やシャーレなどが床に散乱し砕ける音が響く。


 彼――もとい刹那は、妖艶な笑みを口元に湛え言った。
 

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