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５５『震えるウサギ』


あれは、クレアの…

それでは、クレアはもう…



掘られた穴に投げ出されたクレアは、最後にグレイスと別れた時と同じ姿格好をしていた。

クレアの体は、まるで人形のように髪と服以外の一切が固まったように動かず横たわっている。

その上から次々と土が覆い被せられ、時間さえも与えられない。



グレイスはたまらなくなって逃げ出そうとするが、足は震えて思うように動けない。


さっきまであんなに満ち溢れていた不思議な力はすっかり失われたようだった。



そんな中でもグレイスの頭の片隅にあった記憶は呼び起こされた。


危険を察知したウサギは無闇に動かずにじっとしているのだという。



動かないと決めたグレイスは岩陰にうずくまり、口元をきゅっと閉じる。

しかし、手足や唇が震えるのを一向にやめてくれない。


震える唇に流れ落ちてくるのは涙なのか鼻水なのか雨なのか。

その雫はグレイスの顎をつたって両膝を抱えている手にポタポタと落ちる。



まさか、こんなことになるなんて…


｢母…さん｣

グレイスは目を瞑って小さくそうつぶやいた。