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少女グレイスと森の魔女

第9章 夜が明けるまで

64『怒り』


背後から声をかけられたヒゲの男はゆっくりと振り返る。



「はっ!?キミは…!」


「やあ、町長…」

「あなたが今まで何をしてきたのかは聞くまでもないようだ」



右肩に置かれた手の指に力が込められ、ヒゲの男の上着にしわが寄る。



「…覚悟はしてたさ、覚悟は…してたはずなんだが!貴様だけは!」


そう叫んだ男はもう一方の手でヒゲの男を激しく殴り倒した。



その男が誰なのかをようやく悟ったらしいグレイスは男のそばに寄る。



「こんなことの出来る人間を私は同じ人間としては見れない。
せめて人として皆の前で裁きを受けろ!」




一息ついてクレアの父は片膝を地面につけ、傍らにいるグレイスを抱きしめようと腕を広げて懐を空けるが、片手は膝の上に落ちて握り拳となり、もう一方の手は立てた膝の上で目元を隠した。




「うふふ…
ほうら、やっぱりね。私の言った通りだったわ」


突如現れた女の異様さに、その場にいる誰もが息を呑んだが、クレアの父が特にひどく狼狽した。


その女は雨でびっしょりと濡れた丈の長い肌着姿で現れ、泥だらけの足元をよく見れば裸足、そして手にはナイフが握られている。

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