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６５『血痕』


他の誰よりも魔女のような風貌をした女にクレアの父が話しかけた。


｢な、なぜ君がここに？｣

｢…いや、それはいい。
それよりもそのナイフ、血が…｣



｢…ああ、これ？
これはね、そう…｣


女はナイフとそれを握る手に付着した血を眺め、何やら思い出を懐かしむようにくすりと笑う。


｢ちょっと…ね｣



フクロウは辺りを一周して老婆の近くの木にとまる。



ヒゲの男はよろつきながら立ち上がる。



女はクレアの父の肩越しに見える女の子に声をかけた。

｢あなたがグレイスね？
こんばんはぁ。
あれはいつだったかしら？
以前、クレアがあなたと楽しそうに話してるのを見たことがあるの…驚いたわ。
だってあの子、家では全く笑わなかったから。
クレアはちょっと意地悪でしょう？｣


グレイスは不思議そうに女を見ている。



｢あら…
自己紹介がまだだったかしら？｣



女は辺りを見回し、自分の胸に手をあてて、まるで舞台役者のように振る舞う。

｢私がクレアの母です｣

｢何故かしら？
今夜はこんなにひどい天気だというのにとても気分がいいの。
そうね、多分…｣

クレアの母はヒゲの男に目を向ける。