風景画
第20章 intermezzo 夢幻〜ドラゴンの愛
険しい山の頂き近く
岩影に開いた洞窟に
ドラゴンは悩ましく
金のうろこを震わせる
紅く煌めく瞳の奥には
昼間見かけた美しい姫の姿…
一目で恋におち心騒がせる
日毎に募る想いに耐えかね
ある夜ついに
姫を城から連れ出して
その背に乗せて空を翔ける
色鮮やかな
宝石に埋もれた洞窟の奥深く
姫を匿い ドラゴンは愛を捧げる
人が怖れる姿に似つかわず
優しくあたたかな情愛に
いつしか姫の嘆きは薄れ
その傍らで
穏やかに時は流れゆく
けれど
城下で腕に覚えの騎士ひとり
王の命を受け山を登る
そして
夜陰に乗じた一撃は
ドラゴンの胸を貫いた
炎も吐かず魔力を使う暇もなく
見開く瞳に映るのは
声も出せずに立ちすくむ姫の顔
やがて訪れる別れの時…
その刹那
姫は騎士の腕から翻り
手にした短剣で胸を、突く
倒れこむ姫を
最期の力で翼に包み
ドラゴンの命は愛する姫とともに
静かに果てる
その目から零れる涙
姫の頬を伝う涙と溶け合い
深い輝きの真珠に変わる…
(了)