風景画
第39章 poemtory 〜ピエロの恋
ピエロは少女に恋をした…
海辺の街
旅回りの小さなサーカス
その客席で
目を大きくしては息をのみ
口元を押さえては笑い転げる
薔薇色の頬
すみれ色の瞳
躊躇いがちに見つめては
泣き笑いの化粧に心を隠し
はしゃぎ 転がり
軽やかに踏むステップ
笑ってください、ひとときを…
告げることのない想いは
少しの幸福と
抱えきれないほどの切なさと…
星を見上げてこぼすため息が
静かに胸に降り積もる
やがて訪れる最後のステージ
いつもの衣裳に勇気をまとい
震える指で一輪の
真っ赤な薔薇を少女に捧げる
驚いたようにピエロを見つめ
ほんのひととき触れた指先
笑ってください
最後まで…
花が綻ぶような少女の笑顔
ふたりを残して時がとまり
ピエロは夢に包まれる
狂おしい胸の中
刻まれた一瞬は
今
永遠の星となる…
(了)