風景画
第43章 intermezzo 〜アンティーク・ジュエリー
** Ruby **
その館では
時を経た宝石たちの身の上話が
夜毎聞こえる…
私はかつて
王冠を彩るルビーだった
大きな輝きは威光の証し
けれどある日
国に動乱が起き
私は幼い末の姫に委ねられた
この炎の石が
そなたの行く末を守るように…
切ない王の願いを
姫はその手に握りしめ
国を逃れ 海を渡る
しかしその船中で
私は何ものかに奪われた
それからは
人の手を渡り流れる日々…
東方の商人や海を荒らす盗人
最後の王妃の胸元を
飾ったこともある
ご存じだろうか
強い念を持つ石は
持ち主の運命を動かすと
私は…還りたかった
小さな姫の手に
そしていつしか
百年近くの時が流れていた
その日
私は貴族の館で
宝石商の持つ箱の中にいた
と、突然
綺麗、という可愛い声とともに
小さな手に握られたのだ
心が揺れる…
少女を嗜めるように
私を手にしたひとりの老婦人
菫色の瞳を大きく見開き
やがてはらはらと涙を零す
この手のぬくもり…忘れはしない
「やっと、会えた…」
婦人は私に頬をよせる
凍った心がとけてゆき
私の旅は終わりを告げた
(了)