風景画
第45章 intermezzo 〜アンティーク・ジュエリー Ⅱ
** Sapphire **
私は
王女の肌身に寄り添い
秘めた想いを知っていた…
首飾りを彩るサファイアは
語り始める
風が花の薫りを運び
明日は戴冠式を迎える日の午後
遠つ国の貴公子が
王女の前で拝謁の膝をつく
触れる指先 かわす眼差し…
心奪われ
ふたりが恋に落ちるには
十分な 瞬きの間
その夜
王女は叶わぬ想いに胸を焦がし
私の心も揺れていた
眠れぬまま窓辺に寄れば
眺める先には
激情に駆られた貴公子の佇む姿
驚きと喜び…
王女は城の中庭に走り出る
彼の腕の中に飛び込めば
十三夜の月明かりがふたりを包む
「月の舟で流されましょう
どこまでも…」
明日を語ることのない逢瀬
くり返される口づけ
恋…ただ、恋…
想いを交わしたこの一夜を
私は心に刻み込む
ふたりを別つ無情の朝は
女王を名乗るさだめの朝
想いに堪えて座る玉座で
祝福を捧げる貴公子を迎えれば
言葉は虚しく震える唇
見つめ合うほどに
込み上げる狂おしさ
別れの時はたちまちに…
立ち去りかねる彼の手へ
涙に替えて
首飾りを彼女は託す
そして私は
儚き恋の形見となった
(了)