風景画
第49章 intermezzo 〜アンティーク・ジュエリー Ⅲ
** Diamante **
今宵
ダイヤモンドが語り始める…
私は長く流転した
時に呪いのダイヤと言われながら
古い記憶はとうに、ない
覚えているのは
あの人のことだけ…
彼女は
さながら大輪の紅い薔薇
無音の銀幕に夢を描き
人々を熱狂させる
けれど
華やかな日々は
果てない孤独と背中合わせ
凛として
光と影を身にまとう
私を指に着けた日も
彼女は事もなげに言い放った
呪いのダイヤ…?
自分で招いた不幸を
石のせいにするとは愚かなこと
私は
彼女に魅せられた…
そして語る言葉の心地よさ
お前とは似た者同士
うたかたの時に咲くあだ花のよう
確かに
薔薇にダイヤモンドは
よく似合う…
やがて映画は音と声を手に入れる
その変心を待っていたのか
ある日
彼女は、自身の時間を止めた
誇り高い旅立ち…
けれど
何より近くにありながら
引き止め得なかった彼女の命
泣くことも叶わない喪失感
私も砕けてしまいたかった…
それでも
最後の声が私をとどめる
『愛したのはお前だけ』
…ああ
私も
愛したのは、あなただけ・・・
(了)