風景画
第55章 poemtory 〜ピアノ弾きの恋
彼は酒場のピアノ弾き
夜ごとの喧騒に身をひたし
恋の歌を弾いている
飲むほどに
酔うほどに
想いは
あの日に還りゆく
少女に花を捧げた日々…
四つの季節を巡ったら
その瞳の前で名を告げて
焦がれる想いを打ち明けようと
暁に色付く道を
少女の眠る窓辺に向けて
花を抱えて歩き続けた
菫 ミモザ ライラック…
けれど
少女はもういない
遠く 遠く 空の彼方
彼の心を置き去りに
たった一人で旅立った
時間は今も止まったままで…
告げることの
叶わなかった想いを胸に
彼は今夜も
恋の調べを弾いている
(了)