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風景画

第63章  poemtory 〜雪景色

〜 其の一 〜



さ、早う…



そう言って

あの日

軒下で凍える私に

傘を差し掛けたのは誰だったのか



降り始めた雪は

たちまち視界を白くする



それでも動けずにいた私に

困ったように笑いかけ

その人は

自らの肩を滑らせた

濃紫のショールで

小さな体を包んでくれた



ふわりといい匂いがし

気ぃつけてな

優しい声を残し

去っていったのは…



私は

その時のショールを手に

還ってきた

変わらない街並…

二十年の時が過ぎていた



柔らかなビロードの温もりは

大人の世界で行き場をなくした

幼い心をいつも包んでくれていた



…そう、ここだった



あの日と同じ場所と時間

会えるはずもないその人に

言えなかったひとことを



告げたかった・・・







(つづく)



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