風景画
第82章 intermezzo 童夢Ⅰ 〜微睡みの中で…
声が聞こえる
遠く 近く名を呼ぶ声
…ミルク……ミルク
いつもの微睡みの中
いつもの夢…
一面のクローバーが
風で波のように揺らぐ中
子猫の俺は駆け出している
追い付いては
伸ばす少女の手をすり抜け
また、駆ける
緑の匂いとまばゆい光…
何度めかに
少女の腕に抱き上げられ
頭に乗せられた草の王冠
柔らかな葉先が鼻をくすぐり
堪えきれずに洩らしたくしゃみは
少女の笑いを誘う
長い睫毛 薔薇色の頬…
夢はいつもここで弾ける
今
小さなパティスリーで
甘い香りに包まれ
少女の訪れを待っている
長い 長い時間
暖かな月日ではあった、けれど…
何も知らぬまま別れた日から
再びの時を願い続けた
願いは届き
望みはいつか叶うだろう
その時
告げる言葉はひとつだけ
愛してるよ
今までも これからも…
チョコレート細工の夢の城と
缶から溢れるボンボンショコラ
ショーウインドゥから通りを眺め
今日も
その時を待ち続ける
(つづく)