風景画
第86章 intermezzo 肖像 〜夢と祈り
** 王の夢 **
午後の陽が柔らかく差し込み
石づくりの床に温もりを与える
―しばし休憩と致しましょう
降り注ぐ光の粒に
思わず手を差し伸ばした王へ向い
それまで
一心に絵筆を動かしていた
画家が告げる
頷きながら窓辺に寄る
王の長い金髪は
陽に透けて豊かに波打つ
束の間の静かな時間…
画家と過ごすひとときを
王は日々の中で愛おしむ
―覚えているか…?
あの西の丘で過ごした幼き日を
私はいつも馬を駆り
そなたはただ黙って
絵を描いていた
その時から決まっていたのだ
我が肖像はそなたの手で、と
外を眺めながら
問わず語りに続く王の言葉
―そなたが腕を上げる日を
待っていた
画家は初めの日
何故今なのかと問うていた
その答えであろうと思いながらも
遅れて届いた言葉は
何故か不安を呼び起こす
―画伯殿 仕上げは急げよ
じっとしていることは
なかなかに難しい
笑いを含んだ王の言葉が
時を動かす
絵筆を取り顔を上げれば
注がれる深い眼差し…
胸を衝かれ息をのむ
(つづく)