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風景画

第103章  intermezzo 森の精霊 〜芳しき時間




長い長い沈黙

絡まりあうふたりの視線…


ついに

少女の唇が開きかけたその刹那

―行くがいい…


吐息を洩らすような皇子の声

剣は静かに収められた



若者は安堵とともに

少女の手をとり

足早に去って行く



森が沈黙を深くする



残されて

皇子が崩れるように膝をつけば

去りながら幾度も振り返った

少女の瞳が想われる



―何故、私は……

責める言葉に心が濡れる



森が闇に閉ざされ

時間ばかりが過ぎてゆく


と、

微かな気配を背中に受け

振り向けば

立ち上がる皇子の胸

小鳥のように飛び込む愛しい少女


―あなたの声が聞こえました…

乱れた息にひとつの景色が浮かぶ





…森の出口近く

少女はふいに思い出す

あの日の光景を

愛してあげよう



皇子の眼差しに

包まれたこと

そして

手の温もり

…この手ではない

少女は

若者の手を振りほどき

駆け出していた…



―いつの時も

私を愛してくれたのはあなた

私が愛しているのも…あなただけ



皇子は少女を抱く腕に力を込める

―どこへも行くな この手を離すな…



森は今

ふたりを優しく包みゆく







(了)



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