風景画
第103章 intermezzo 森の精霊 〜芳しき時間
―…ともに行こう
深く優しい響きの声
―誰もお前を愛さぬのなら
私がお前を愛してあげよう…
ひとり彷徨う少女の小さな右手は
精霊の皇子の手に包まれた
森がひと色艶を増す
その森を統べる皇子の館は
奥深く 花に囲まれた泉のほとり
豊かな緑 渡る風
煌めく光が少女を包み
皇子は与う限りの愛を注ぎ
孤独を癒す
日ごとに
憂いをはらいゆく少女の笑顔は
皇子の心に深く熱い想いを宿す
愛しい…
湧き上がる初めての情は
甘やかな戸惑いを胸に広げる
…十年の時が静かに刻まれ
少女は十七
森の緑が一際鮮やかさを見せる頃
若者が一人迷い込み
少女を見初める
おずおずと
少女もその熱情に思いを重ねれば
森に不穏な影がさす
二人の逢瀬に気付いた皇子は
初めて剣の鞘をはらい
若者の上に 振りかざす
震える唇 その身を包む青白い炎
森は
すべての息吹を凍らせ
静まり返る
―殺さないで!
しじまを破る鋭い声
若者を背に庇う少女の瞳が
光を放つ
(つづく)