風景画
第10章 intermezzo 幻想の風景〜吟遊詩人 Ⅴ/Ⅴ
乙女は囁く
細く開いた窓の内
「どうか彼の方にお伝えください
お心に添うことはできませぬ
この身は払暁 尼僧となるもの
お忘れ下さい
どうか どうか・・・」
涙で震える言葉に心砕け
詩人は王と向かい合う
そして
乙女の想いをリュートに乗せる
一言一句、違わぬように…
窓辺で月を背にした王の顔色は
窺い知れぬものながら
「尼僧院を焼き払え…」
その声音は氷の響き
しばし後
「とは言えぬ、な…」
静かな声で詩人に続ける
「では私も生涯妻はめとるまい
恋に殉ずる身となろう」
窓に向き直るその刹那
王の頬が一筋光るのを
月明かりが淡くとらえる
詩人は胸を詰まらせ
深く頭を垂れる
(つづく)