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雨のち曇り、時々晴れ【ARS】

第2章 タオル【潤】

『柔軟剤だけど。』

「うん、写真見たよ。」

『大きな店ならどこでも売ってると思うから、探してみろよ。』

「わかった。そうしてみるよ。」

嘘だ。
俺はあの柔軟剤を絶対に買ったりしない。

会話の最中も、俺は右手をとめたりしない。

「はぁ…」

吐息を翔さんに聞かれないように、声を逃がす。

『それにしても、今日はいい月だな。』

「…、あぁ、そうだね。」

翔さんの声は優しく俺の耳元に響く。
俺の自分自身の先端から、にじみ出る透明な液体。

「こんな月夜は、人恋しくなるね。」

『何だよ潤、えらく今日は寂しがりなんだな。』

翔さんは笑う。
焼酎をひとくち飲み込んだのだろう。
ゴクッと喉がなるのが電話ごしに聞こえる。

翔さんの喉が動くのが見えるようだ。
太くてたくましい翔さんの首。

「あぁ!」

俺はまた声を逃がす。

翔さんの声を聞きながら、翔さんに知られてはいけないことをしていると思うと、背筋がゾクゾクする。

右手はだんだんとスピードをあげる。

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