凍夜
第3章 花
「ねぇ、ママ。」
由美子が呼んだ。
「なぁに?」
ママはいつも化粧に忙しい。
由美子はママがいつも鏡ばかり見ているのを気にしていた。
それに、近頃、昔のパパが由美子の留守中に家に来ているようで、「パパはなんで私と顔を合わせないの。」と、ママに訊いた。
「パパは酒乱で直ぐ殴るから危ないからよ。」
ママが答えた。
「じゃあ、ママ、昔のパパ、嫌いなのに、会ってるの?」
「嫌いじゃないわよ、今は。」
「じゃあ、愛してる?」
ママはマスカラをドレッサーに乱暴に置くと由美子を振り返った。
「それは、大人の話よ。由美子は知らなくていいの。」
ママは長い睫毛をしばたたかせた。
「だって殴るのに、会うなんて変だよ。」
「いいの。由美子を殴るなら会わないけどね。」
ママはまた鏡に向かった。