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凍夜

第5章 渇望



夕闇の中、息を切らせ、交差点にたどり着いた男。

「待てよ!てめえ!」

追われて逃げる男。

ワイシャツがはだけてズボンのベルトからはしたなくはみ出していた。

髪を振り乱し、目は血走っていた。

道行く人々が、逃げる男を振り返る。

直ぐに男は、追っ手に捕まって、黒のワゴン車に乱暴に押し込まれた。

ドアが閉まる時、「助けてくれ!」

と男が叫んだけれど、誰もが皆、目をそらして通り過ぎて行った。

この町では、こんな光景が珍しくはない。

空車のタクシーの長い列がどこまでも続き、出勤へと急ぐ水商売風の女達。
飛び交う客引きの声。

JR駅から、国道5号線までを繋ぐ一本の通りには、スーパーから飲食店、風俗と雑多なビルがひしめきあっている。

由美子は、この町で産まれ育った。

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