凍夜
第5章 渇望
マサシは目を開けると、私の目を射るように一瞬強く見つめた。
「……!」
私はマサシに抱き寄せられた。
「……。」
マサシは私の背中をさするように手を滑らせ、「ごめん……。」と耳元で呟いた。
「仕方なかったんだよ……。」
マサシは力なくそう言って私の手を握った。
「俺、おふくろ殺したの静香だってわかって……それで……。」
マサシの声がかすれた。
「……それで……。」
私は黙っていた。
「……ワンになったんだ。」
「……?」
私は顔を上げた。
「リナ、俺達、一緒だよ。わかる?」
マサシは私の両肩に手を置くと私の顔をのぞきこんだ。
「リナの苦しみ俺も引き受ける。俺たち全部一緒だから。」
マサシの瞳に私が居た。
その瞳に涙が滲んだ。
「でも、殺すつもりなかった。信じてリナ!」
私はマサシを抱きしめた。
まだマサシの話の意味がよくわからなかった。
でも、そんなことはどうでもよいと思っていた。
私の気持ちにはなんら変わりはない。
私達は、感情という悪魔を扱うことに慣れ始めていた。
「俺、こんな汚れてるから、リナに触れる資格ないよ。」
マサシがそう言って、私から体を離した。
「なんで?私たち、一緒なんでしょ?」
私はマサシの肩を掴んだ。
「……ゥ。」
マサシは私から目をそらすと小さく呻いた。
私はマサシに飛びつくとマサシの唇を私の唇で塞いだ。
「……!」
ほんの数秒間、私たちの唇は一つになった。
きっと今までの人生の中で一番、無垢で本能的なくちづけだった。
私の頭の中で、川が流れた。
その川面は群青色の空を乗せ真っぷたつに割れた半月が揺れていた。