
普通の幸せ
第2章 格差
「菜穂?」
夜の11時過ぎ、今日も普段よりは早い時間に博紀は帰ってきた。
リビングの灯りがついて、惨めな俺が博紀の目に入ってしまう。
「菜穂……どうかしたのか?具合が悪いのか?」
ソファーに横になったまま両手で顔を覆い尽くしている俺を、博紀は心配そうに声を掛けながら前屈みになると俺の手首を掴んで顔を離そうとしてきた。
「菜穂……泣いてるのか?」
両手で力を込めて押さえていた俺の目元は赤くなっていた。
あんなにきつく押さえていたのに、顔は涙でぐちゃぐちゃで、両手を剥がされると更に涙が溢れて頬を伝っていく。
「菜穂…っ、怪我してるじゃないか。何があったんだよ?」
腕や手にある血が滲んで乾いた擦り傷に気が付いた博紀が声を大きくして俺に問い掛ける。
応えようとしても、何も言葉にならない。
何か言おうとすると嗚咽が漏れるだけだ。
そんな俺を博紀は何も言わずに抱き締めてくれた。
その胸に顔を押し付けて、子供みたいに泣きじゃくってしまった。
「ごめ……っ、ガキみたいだよな……俺」
泣くだけ泣いてようやく枯れ始めた涙を手の甲で拭うと顔を上げた。
「……気にしなくていいよ。落ち着いたなら手当しようか」
博紀は俺の頭を撫でながら優しく笑みを浮かべて立ち上がると救急箱を取りに行った。
「腕の傷ならちょっと転んだだけだから、大丈夫だって」
あの男に階段から突き飛ばされて転げ落ちた時に擦りむいた傷だったけど、惨めすぎて博紀には話したくないし知られたくない。
「菜穂……お前は気にしてるかもしれないけど、俺はそのままの菜穂が好きだよ」
戻ってきた博紀が救急箱から消毒スプレーを取り出し、俺の腕を掴み上げるとそれを傷口に吹き掛けながら言う。
消毒液が染みる痛みに顔を顰めながらも、その言葉はしっかりと胸に響いていた。
夜の11時過ぎ、今日も普段よりは早い時間に博紀は帰ってきた。
リビングの灯りがついて、惨めな俺が博紀の目に入ってしまう。
「菜穂……どうかしたのか?具合が悪いのか?」
ソファーに横になったまま両手で顔を覆い尽くしている俺を、博紀は心配そうに声を掛けながら前屈みになると俺の手首を掴んで顔を離そうとしてきた。
「菜穂……泣いてるのか?」
両手で力を込めて押さえていた俺の目元は赤くなっていた。
あんなにきつく押さえていたのに、顔は涙でぐちゃぐちゃで、両手を剥がされると更に涙が溢れて頬を伝っていく。
「菜穂…っ、怪我してるじゃないか。何があったんだよ?」
腕や手にある血が滲んで乾いた擦り傷に気が付いた博紀が声を大きくして俺に問い掛ける。
応えようとしても、何も言葉にならない。
何か言おうとすると嗚咽が漏れるだけだ。
そんな俺を博紀は何も言わずに抱き締めてくれた。
その胸に顔を押し付けて、子供みたいに泣きじゃくってしまった。
「ごめ……っ、ガキみたいだよな……俺」
泣くだけ泣いてようやく枯れ始めた涙を手の甲で拭うと顔を上げた。
「……気にしなくていいよ。落ち着いたなら手当しようか」
博紀は俺の頭を撫でながら優しく笑みを浮かべて立ち上がると救急箱を取りに行った。
「腕の傷ならちょっと転んだだけだから、大丈夫だって」
あの男に階段から突き飛ばされて転げ落ちた時に擦りむいた傷だったけど、惨めすぎて博紀には話したくないし知られたくない。
「菜穂……お前は気にしてるかもしれないけど、俺はそのままの菜穂が好きだよ」
戻ってきた博紀が救急箱から消毒スプレーを取り出し、俺の腕を掴み上げるとそれを傷口に吹き掛けながら言う。
消毒液が染みる痛みに顔を顰めながらも、その言葉はしっかりと胸に響いていた。
