
普通の幸せ
第2章 格差
「菜穂、今夜は同期の連中と食事に行くんだが、菜穂も来ないか?」
朝、博紀がネクタイを締め終わるとスーツを羽織りながら言う。
「い、いや~…それはちょっと」
過度に卑屈になるのは自分の為にも博紀の為にも止めたい。けど、やっぱり今は自然に振舞う自信がなかった。
「菜穂のこと、俺の大切な友人として紹介したいんだよ。正直に恋人でもいいけど、菜穂が恥ずかしがるから止めておくよ」
「ん~……」
「たまには俺のお願いも聞いてくれないかな?」
少しだけ甘えるような口調で強請るように言う博紀に少し吹き出した。
「お願いって。…まぁ、博紀がいいなら、俺もいいよ。場所は?」
この前夕食を断って機嫌を損ねたばかりだし、俺もあんな喧嘩はもうしたくなかった。
「この前話したレストランだよ。うちの会社で評判が良くてさ」
「………」
無意識に、手が腕の傷に触れてしまう。あの男に言われた事や俺を馬鹿にしたように見る目を思い出していた。
「菜穂?」
「……あ、ああ……。小綺麗なスーツってあったっけな~俺」
「はは、そんな気にしなくても普通の格好で大丈夫だよ」
「え~、お前らは格好いいスーツで行くんだろーが」
「会社から直行する予定だからね。格好いいどころか着古したスーツだよ」
おどけたように言う博紀のスーツ姿から着古した感なんて全くない。俺は苦笑いした。
「……菜穂?そんなに力を篭めていたら赤くなるよ」
「へっ、あ、あ~…」
博紀は自分の腕を押さえる俺の手を掴むと優しく引き離す。無意識に力を篭めて握ってしまっていた。
「大丈夫かい?顔色が悪いようだけど」
「大丈夫、大丈夫。ほら、早く行かないと遅刻じゃないか?」
「ん……そうだね」
俺を心配しながらも博紀は鞄を手に持つと玄関へ向かい、俺も見送る為に後を追った。
朝、博紀がネクタイを締め終わるとスーツを羽織りながら言う。
「い、いや~…それはちょっと」
過度に卑屈になるのは自分の為にも博紀の為にも止めたい。けど、やっぱり今は自然に振舞う自信がなかった。
「菜穂のこと、俺の大切な友人として紹介したいんだよ。正直に恋人でもいいけど、菜穂が恥ずかしがるから止めておくよ」
「ん~……」
「たまには俺のお願いも聞いてくれないかな?」
少しだけ甘えるような口調で強請るように言う博紀に少し吹き出した。
「お願いって。…まぁ、博紀がいいなら、俺もいいよ。場所は?」
この前夕食を断って機嫌を損ねたばかりだし、俺もあんな喧嘩はもうしたくなかった。
「この前話したレストランだよ。うちの会社で評判が良くてさ」
「………」
無意識に、手が腕の傷に触れてしまう。あの男に言われた事や俺を馬鹿にしたように見る目を思い出していた。
「菜穂?」
「……あ、ああ……。小綺麗なスーツってあったっけな~俺」
「はは、そんな気にしなくても普通の格好で大丈夫だよ」
「え~、お前らは格好いいスーツで行くんだろーが」
「会社から直行する予定だからね。格好いいどころか着古したスーツだよ」
おどけたように言う博紀のスーツ姿から着古した感なんて全くない。俺は苦笑いした。
「……菜穂?そんなに力を篭めていたら赤くなるよ」
「へっ、あ、あ~…」
博紀は自分の腕を押さえる俺の手を掴むと優しく引き離す。無意識に力を篭めて握ってしまっていた。
「大丈夫かい?顔色が悪いようだけど」
「大丈夫、大丈夫。ほら、早く行かないと遅刻じゃないか?」
「ん……そうだね」
俺を心配しながらも博紀は鞄を手に持つと玄関へ向かい、俺も見送る為に後を追った。
