 
ネムリヒメ.
第11章 体温計と風邪薬.
アタシは立ち尽くしたまま彼の横顔を見つめていた
まるで心を奪われたかのように見惚れたまま、時間が止まったようだった
心臓だけが甘い音をたてている
カッコいい…そんな安っぽい言葉ではなく、美しい…この言葉は彼のためにあるのではないか
つい、そんなコトを思ってしまう光景だった
「おはよ…」
アタシの気配に振り返った彼
その声は寝起きのせいもあって、いつもより低く掠れてあだっぽく、聞く者に劣情を抱かせる
彼のいる場所だけ回りと空気が違うように見えた
「熱は?」
そう言ってタバコの灰をトンっと落としながらそっと微笑む彼
アタシは首を横に振ると、渚くんに歩み寄ってまっすぐ彼の胸に飛び込んだ
それに理由なんてなくて、彼の温かい胸に顔をすり寄せる
甘いソープの匂いと温かい体温が胸をキュッと締め付けた
「ごめんなさい…」
「ん…!?」
それ以上なにも言わない彼がアタシを抱き締め返す
その沈黙がなんだか心地よくて、アタシはしばらく彼の腕のなかにいた
 
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