 
ネムリヒメ.
第13章 シャンパン☆ストロベリー.
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淡く春の夕闇がただよう
アタシは誰もいないリビングのソファーの上でひとり膝を抱えていた
ただ流れているだけのテレビ
『明日の天気をお伝えします。
明日は全国的におだやかな…』
画面の向こうで、にこやかに微笑むお天気お姉さんの声は今のアタシにはただのBGMでしかない
「………今頃もう遅いよ…」
肝心なときに勝手に行方不明になったくせに…
今頃戻ってこないで…
物憂げな瞳で大きな画面を見つめながら、今頃ひょっこり戻ってきた、冷静な自分にポツリと呟いた
テレビに映し出される気持ちよく晴れ渡った青空の映像とは打って変わって、アタシの気持ちはまったく晴れないでいる
ただひたすら考えているのはさっき部屋での渚くんとのやりとりだった
『…お前が毎晩抱けっつったんだろ』
…確かに言った
渚くんと初めて会ったあの日のあの夜、確かに彼にそう告げた
部分的に起きたフラッシュバックで呼び起こされた記憶
しかしその前後がまったく出てこなかった
なんでシャワーでびしょ濡れになりながらあんなコト言ってたんだろ…
なんであんなに泣きそうな顔してたの…
『夜がくるたび…抱いて』
その言葉が、きっと渚くんがアタシを抱くことのきっかけになったには違いないだろうけど
そこに行き着くまでの成り行きがまったく不明のままだった
 
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