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未知夢

第15章 隠人

 そして、私は……酒の勢いもあっただろうが、間違いなくやつを殺した。


 ただ、証拠隠滅できるほど正常じゃなかったから、すぐ足がついた。


 すぐさまタクシーを走らせ家にもどり、翌日の昼から捕まるまでの間、自分のやった行為と捕まるかも?という恐怖で自らの顔をなぐり髪を掻きむしり、ハサミで切り顔が変わるくらいに化膿させ、部屋にただじっとしていた。


 正常じゃなかったんだ。気が狂っていた。


 そしていま、私は取調室にいる。正面の鏡に写る自分の顔を眺めながら……。


 空想しながら刑事の話を聞く。


 くだらねえ動機とかいいじゃないか。殺したのは間違いなく私だ。


 もういいだろう。


大森殺しの犯人は私だけしかいないんだ。


 まてよ……あの時、大森の部屋に訪ねてきたやつ、なんとなくだが私に似てたような気がしたが……まさかな。


 たかが空想だ。本当になってたわけがない。


 そこに血相を変えて刑事が入ってきた。


『あの、信じられない事なんですが、この容疑者と名前も指紋も全く一致する男が自首して来たんです。』


 え? そんなわけないだろ。いましがた想像したことが本当になる?


 馬鹿げてる。


 だが、微かに感じた。あの鏡の向こう側、マジックミラーから私を覗きこむなにかを……もう、想像のままでいさせろよ。



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