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未知夢

第16章 変貌

 マスターは厚さ0.5ミリのバリカンを準備する。


「よろしいでっか? おもいっきりいきまっせ!」


「ああ、ツルッツルに頼みます」


 10分後……。


 小坊主の様な頭になった繁は、料金を支払い、店を出た。そしてその足で梅田に向かった。


 外はまだ明るい。時は午後7時。


「原点に戻ろう」


 繁はそう言うと、東通り商店街に向かった。


 ブラッとあちこちを歩き回る。疲れたら地べたに座り、ゆっくりとくつろぐ。それの繰り返しだった。


 時間の進みが早い。おそらく意識が飛んでいるのだろう。


 場所も時折変わる。


 あの心の声が言ってた通り、自分と入れ替わるのかもしれない。


 不思議にそんな恐怖は無かった。ただ、意識は無くとも、この手で綾子を殺めてしまったこと。これだけが滝繁と言う人格を崩壊させている気がした。


 今なら、目の前で子犬が車にひかれても、なにも感じないだろう。


 もう、何も思わなくなってきていた。


 時折、自殺も考えた。だが、もし、これからの展開が、心が書いた未知夢のストーリーになれば、この世界の繁は助かる。


 自殺は出来なかった。




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