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それには、今迄苦手だった事もこなさなくてはならない。

東乃宮の家に来てから、与えられるばかりであった綾芽が、能動的に自分から何かをしようと思った瞬間だった。

（そうと決まったら、黒崎さんが戻って来る迄、本でも読もう）

新たな知識を得る為、綾芽は書斎に戻って行った。

その頃、黒崎は少し落ち着き、自分の吐き出した欲望の後片付けをしていた。

（お嬢様、引いたよなぁ…。もう口きいて貰えないかもなぁ…）

折角、砕けた感じで話せる様になったのにと黒崎は自分の失敗を悔いていた。

（いくら切羽詰まっていたとは言え、鍵は掛けておくべきだろ、俺！）


黒崎は未だ知らない。

綾芽の強さ、そして柔軟さを。


黒崎真琴

25歳。

明るい性格ではあるが、意外にもマイナス思考の彼が、綾芽の前向きさを見習い、人として、男として成長するのは、そう遠くない未来にある事をこの時の彼は未だ知りもしなかった。