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お嬢様♡レッスン

第19章 執事の悩みⅠ(黒崎編)

黒崎が戻って来る迄、読書をしようと思った綾芽は書斎で一冊の本を広げていた。

雑学の本である。

こんな物を覚えて何になる、と思われる方も居られるかも知れないが、天気の話より役に立つ物である。

相手が興味を示せば、それについて話せば良いし、興味が無さそうであれば、他の話題にすれば良い。

注意したいのは、薀蓄を延々と話す事である。

雑学とは、知って居れば便利ではあるが、知らなくても問題はないレベルの知識だからである。

会話を円滑に行う為の一つのツール程度だ。

美術やら音楽の歴史云々に知識の浅い綾芽は、1ヶ月後に迫った彼女のお披露目パーティの為に、ボロが出そうな専門的な話よりは、さらりと流せる雑学で何とか会話を持たせようと思ったのである。

勿論、必要な専門的知識は、葛城や高月が教えてくれるであろう。

無駄な知識程、面白い物はない。

子供の頃に見たバラエティ番組で、無駄な知識に対し、どれだけ『へぇ!』と感銘を受けたかを品評するプログラムがあったが、綾芽はその番組を見るのが大好きだった。

あの『へぇ!』ボタンが欲しくて強請った事もある。

結局、買っては貰えなかったが、父や母が薀蓄を語り出した時は、『へぇ~!』と言いながらボタンを押す真似をした物だった。

懐かしい両親との思い出の記憶である。

そんな過去を思い出しながら頁を繰っていると、時間はあっという間に休憩時間の30分を過ぎていた。

(どうしたんだろ?迎えに行ってみようかな?)

そう思い綾芽は執事室に向かった。

“コンコン!”

扉をノックしてみる。

「綾芽ですけど、お兄ちゃん?居るの?」

今度は返事がある迄、開けないで待ってみる事にした。

しかし、返事はない。

「いないの?開けるけど大丈夫?」

そう確認してノブを回す。

鍵は掛かっておらず、扉がスッと開いた。

そっと中を覗くと、ベッドに座って頭を抱えている黒崎の姿があった。

「お兄ちゃん?頭が痛いの?」

綾芽は黒崎の傍に寄り、彼の肩に手を置いた。

黒崎はビクッと震えて顔を上げた。

「あ…。お嬢様…?」

「大丈夫?時間になっても戻って来ないから心配で見に来ちゃった…」

「すみません!」

我に返った黒崎が突然立ち上がって綾芽に頭を下げる。

「そんなに恐縮しなくても、大丈夫だよ?」

「すみません!すみません!!」

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