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お嬢様♡レッスン

第29章 執事の計略Ⅰ(高月編)

(今がチャンスなのかも知れない)

高月はそう思った。

綾芽が動揺している今、付け入る隙があると。

そう考えると、恵莉奈は良いタイミングで現れたのかも知れない。

自分に関わってさえ来なければ、別に大した問題でも何でもない。

葛城があの恵莉奈を抱く事は、ある程度予測していた事だ。

恐らく、綾芽に近しい執事である自分達を恵莉奈によって穢す訳にはいかないと。

全ては綾芽の為。

誰も恵莉奈を相手にしなければ、恵莉奈の顔に泥を塗る事になる。

それは、綾芽にとって後々面倒な事にならないとも限らない。

ならば、この邸の全責任を負う立場の彼が相手をする他ないと判断したのであろう。

しかし、バカ正直に抱くのは愚かな事だ。

自分が愛する人を傷付けて迄、あんなふしだらな女の顔を立てる義理等ないと高月は思う。

唯、それが出来る葛城だからこそ、宗佑に信頼され、あの年齢で本家の家令の位置に就いていると言えよう。

使用人とは、己を犠牲にしてでも主人の為に動かなくてはならないのだから。

故に昔の使用人達は結婚はしない者が多かったかった。

結婚をしてしまうと、家族が第一になり、主人は二の次になるからである。

また、主人を第一と考えた場合、家庭の事は疎かになり、不満を持った配偶者が家を出てしまうケースもあった。

葛城は東乃宮一族に仕える使用人達全ての頂点に立っている。

人一倍、その意識が高いと言えるだろう。

あれだけ綾芽に対する気持ちを高月に吐露しておきながら、最終的には東乃宮家の為に動くのだ。

綾芽に出逢う前の高月であれば、彼もそうであったと言えるが、今の彼は綾芽への気持ちに溺れ、使用人としての立場よりも、己の欲望を優先してしまっている。

それは彼自身も自覚をしている所であり、抑えようとは思っているのだが、それが出来ずにいた。

昔の自分だったら、今の自分の方を愚かだと言ったであろう。

それでも、高月は今の自分の方が人間らしくて気に入っている。

そして、そんな気持ちを齎してくれる綾芽にますます溺れて行くのだった。

残酷ではあるが、例え今は綾芽が傷付くとしても、二人の中を裂き自分に向けさせる。

綾芽に付いた傷は自分が癒す。

綾芽の心の隙間は全て自分が埋める。

傲慢かも知れないが、高月はそう思い行動に移す事にした。

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