テキストサイズ

お嬢様♡レッスン

第30章 執事の計略Ⅱ(高月編)

「ああああん!いやぁ━━━!ダメぇ」

綾芽は身体をビクビクと震わせて、また達した。

もう、何度それを繰り返しているのか。

綾芽は分からなくなっていた。

しかし、意識は白濁しているが飛ぶには至らず、それが綾芽を苦しめていた。

彼女の心の大半を占めている男が、他の男に抱かれている自分を見ているこの状況が。

何故、葛城は部屋から出て行ってくれないのだろう。

他の男に抱かれる自分を見ても何とも思わないからなのか。

葛城にとって自分はその程度なのだと綾芽は思い悲しくなった。

昼間、他の女を抱く葛城を見て、自分は逃げ出したい程だったのに。

あの時の彼は自分を見つけても何も言わず、そのまま扉を閉めた。

まるでその空間に自分が存在していないかの様に。

少なからず、葛城も自分の事を想ってくれているのではないかと期待していたが、そうではなかったのだと綾芽は落胆した。

彼への想いは封印しよう。

葛城が自分に優しいのは、東乃宮のお嬢様だからなのであって、決して自分に好意を抱いているからなのではない。

綾芽はそう思ってしまった。

高月は自分を愛してくれている。

彼から差し出された手を取れば、きっとその方が自分は幸せになれるのだ。

綾芽は高月の計略にまんまと嵌ってしまった。

葛城の心を確かめようともせずに。

それが綾芽の過ちであった。

恋愛経験のない彼女は、傷付く事を恐れて真実を確認する事を避けると言う、彼女らしからぬ選択をしてしまったのだ。

それは葛城にも言える事だった。

自分の立場を理由に、綾芽の心に直接触れる事を避けていた。

綾芽に対する気持ちに特別な意味を持たせてしまえば、東乃宮の家令ではなく、一人の男として彼女を中心に行動してしまう。

それは東乃宮一族に仕える者達の頂点に立ち、恩義があり忠誠を誓った主人に対しての裏切り行為になる。

その様な考えが、彼の心に歯止めを掛けていた。

彼の主人・宗佑がそれを望んでいないにも関わらず。

彼も傷付く事を恐れて、自分の立場に逃げてしまっていた。

この世の中で人知れず消える恋心は一体幾つあるのだろうか。

綾芽の初恋も今、終わりを迎えようとしていた。

その男の目の前で。

彼に看取られながら。

暗い海の底に沈むかのように静かに。

綾芽は自分の心の一部を葬った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ