お嬢様♡レッスン
第88章 戸惑いのお坊ちゃま
”バタン!!”
フレデリクは部屋に駆け込み、勢いよく扉を閉めると、それに背中を預ける様にして凭れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
庭から此処まで全力で走って来た為、呼吸が乱れ心臓がバクバクと暴れている。
(僕は…何をした?何をしてた───!?)
フレデリクは自分の掌を見つめる。
柔らかく、もっちりとした感触。
ぷるぷるでふわふわで。
物心ついた時からは女性の胸には触れた事がないフレデリクには、軽い衝撃だった。
「マシュマロ…みたいだった…」
自分は何を言っているんだろうか。
優しく背中を叩く手。
兄の様な。
いや、母の様な。
そうだ。
母が他界するまでは、そうしてくれたのは母だった。
彼女がこの世を去った後、その役目は兄となった。
雷鳴が轟き不安で眠れない夜。
怪談噺を読み怖くて震えた夜。
兄のベッドに潜り込むと、決まって彼は自分を抱き締めてくれ、背中を優しく叩いてくれた。
それが鼓動と相まって。
自然と落ち着き、怖さが消えた。
(僕は兄さんの中に母様を求めていたのだろうか?)