テキストサイズ

お嬢様♡レッスン

第15章 Lesson 5♥優しくタッチしましょう

「おはようございます、お嬢様」

綾芽の1日は大抵この執事の朝の挨拶から始まる。

「本日、お嬢様を担当させて頂きます、速水で御座います。宜しくお願い致します」

速水は胸に手を当てて礼をすると、身を起こしてパチンとウインクした。

(ちょっと軽そうな人だな───…)

綾芽の速水に対する印象は、そんな感じであった。

速水はカーテンを開け放し、アーリィモーニングティーを煎れるとベッドサイドのテーブルにそれを静かに置いた。

綾芽は『有難うございます』と言ってカップを手に取りお茶を一服口に含む。

綾芽がお茶を楽しんでいる間に速水が今日のスケジュールを伝える。

今日のレッスンはピアノの様だ。

(ピアノかぁ…“猫踏んじゃった”くらいしか弾けないんだけど、大丈夫なのかなぁ…)

綾芽の両親は、訳あって日本全国津々浦々を転々としていた為、習い事の経験は一つもない。

家財道具も必要最低限に留まっていたので、ビアノは学校の音楽室や体育館でしか見た事がなかった。

「お嬢様、隣に控えて居りますので、お支度が整いましたら、お呼び下さい」

そう言って速水は、綾芽の部屋を出て行った。

何故だか分からないが、高月から綾芽の着替えの手伝いは“絶対にするな”との申し送りがあった。

お嬢様教育が始まった初日の、あの淫らな行為を期待していただけに速水はがっかりしていた。

(それにしても───)

綾芽が来てからまだ数日だと言うのに、葛城や高月の雰囲気が変わった。

あの厳しくて優秀な上司達が、挙って綾芽の虜である。

(一体、どんな魔法を使ったのか?)

速水は綾芽に非常に興味を持った。

それに当の綾芽も初めて顔を合わせた時より、数倍も美しく品格が身について来た様に感じた。

初めて逢った時は儚げで守ってあげたくなる様な女の子だと、速水の印象ではそう思って居たが、今の綾芽からは儚げな雰囲気はない。

最初の印象が“月”だとすれば、今の印象は“太陽”だと思うくらい差がある。

両親から、綾芽の母は正に“太陽”の様な人だと聞かされていた。

恐らく、綾芽もその血を受け継いでいるのだろう。

白鳥館の皆が愛して止まない“綾音様”

その娘の“綾芽様”は皆の期待を背負って此処に居る。

その重圧は計り知れない。

自分はそんな綾芽の息抜きの出来る場所に成れればいいなと速水は思った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ