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記憶のない綾芽が彼に恋をしていたかも知れない状況では焦って当然とは言える。

「あちらにはお迎えに行かれるのですか？」

「行きたい…そう思っているのですが…」

「行けばいいじゃないですか？スケジュールなら調整しますよ？」

黒崎は書類を纏める作業に戻り、手を動かしながら、そう言って葛城の背中を押す。

「ふふっ。頼もしいですね」

葛城は閉じていた目を開くと、目の前で作業を進める黒崎を見てそう言った。

黒崎は葛城の視線に気付くと、顔を上げて真っ直ぐ彼を見て自分の気持ちを口にする。

「それくらい当然です。葛城さん。俺は綾芽様を幸せに出来るのは、葛城さんしか居ないと思ってます。俺が心から愛した人です。どうか幸せにして上げて下さい」

澄んだ黒崎の瞳は葛城の不安や迷いを振り払う。

そうだ。

自分が彼女を幸せにすると心に決めたのだ。

彼女が他の男に心を囚われる様な事があれば、それを奪い返す。

そう決めたではないか。

だからプロポーズして自分の意思を彼女の伝えたのではないか。

何を迷っているのだ。

皆が応援してくれているのに。

今更ながら臆病風に吹かれている自分を失笑する葛城。

「必ず！……有難う、黒崎」

「ははっ！それじゃあ、早速、飛行機の手配とスケジュールの調整をしておきますね！」

そう言うと黒崎は、纏め終えた書類を束ね、葛城に手渡すと役員室を出て行った。

葛城もスマートフォンを取り出すと、スケジュールの確認と調整をする為に動き出したのだった。