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sugar-holic

第29章 思い出の味

鶏肉を入れて、あと必要なのは…

「だし醤油?普通の醤油じゃないんだ」

「うん。その方が美味しいかなって」

「はー、成る程ねー」

その他の調味料と、鍋、菜箸をカートに入れると、強司が首を傾げた。

「何で鍋まで?」

「だって家にないもん」

「はぁ?何で?」

そんな驚く事かなぁ?

「引っ越しの時に全部捨てた」

そう言いながら、小さめのまな板と包丁を手に取ると、強司が目を丸くして

「それも無ぇの!?…お前、大丈夫か!?」

「何が?」

「よく言ってたじゃん?仕事で疲れてても、ごはん作るとストレス解消になるって」

「あー、そうだったね」

そんな事言ったような気もする。

だけどそれは、私が作ったものを強司が食べてくれたから、だもん。

「仕事が忙しすぎて、作ってる暇がないの」

「それにしたって、引っ越してからどんだけ経ったんだよ」

笑いながら話す強司に、胸がツキンと傷んだ。

そっか…。

強司にとっては、笑って話せるくらい『昔』なんだ。

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