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sugar-holic

第30章 鈍いにも程がある《倉田side》

ドアチャイムを鳴らすと、思いの外高らかに鳴り響いた。

その途端、部屋の中で何かを打ち付けたような、鈍い音がして。

え?

ドアが開いたその先には。

焦ったような表情を浮かべたあの人と。

壁に手を付いて凭れている、『ツヨシ』らしき男。

やっぱり一緒だったか。

心のなかで舌打ちをするも、

「こんな時間にすみません。どうしても急ぎで見て頂きたい書類がありまして」

営業スマイルを浮かべて、クリアファイルを掲げて見せた。

「こんな時間まで、ご苦労さん」

何故かツヨシがニヤニヤ笑いながら労いの言葉をかけてきた。

「じゃ、帰るわ」

は!?

「あ、うん。練習してからにしなさいよ?」

「あぁ。サンキュな」

ツヨシは右手を上げて指先をひらひら動かすと、靴を履いて俺の脇を通り抜けて…

「ま、頑張んな」

ボソッと呟かれた。

…何を?

振り返ったけれど、ツヨシは前を向いたままエレベーターのある方向へ歩いて行ってしまった。

「倉田くん…?」

その声に向き直れば、部屋のドアを押さえたまま、俺を見上げているあの人がいて…。

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