遠い約束
第3章 喫茶室の情景 (二)
「でも冬吾さんは、よく行った先からお手製の絵はがきを送って下さったわ。まるで自分もそこにいるように思えてとても嬉しかった…」
今でも大事にとってある、と微笑む冴子に
「その何通めかの返事でした、あなたの結婚が決まったと書いてあったのは」
表情を消したような冬吾の声に思いは一息に当時へと遡る。
女学校を卒業して、気ままな暮らしをしていた冴子の家の呉服店が急に傾いたのは、取引先の不手際が引き金だった。
家の為だったのです、小さくなった父の背中を見ていられなかったのです…
何を言っても今更だろうと、水滴のついたグラスの縁をなぞりながら冴子は心で苦笑した。