遠い約束
第3章 喫茶室の情景 (二)
「香月が援助を申し出てくれたのです。それに19の私はもう縁付いてもいい年ごろでした。
でも…軽蔑なさる?金で身を売った、と」
強く見つめる眼差しは昔のままだと、冬吾の胸がかすかに軋む。
「そんな事はいうものじゃない。私は香月さんは立派な人だと思ってますよ。
リベラルで経営手腕も確か、ご家族のことも大切にしておられる」
冬吾は1年前、初めて香月駿介にさる会合で会った時のことを思い出して言った。
その名を聞いたとき、全身が雷に打たれたような感覚を覚えたのだった。
この男が冴さんの…
胸の底にある埋み火が、鮮やかな炎を吹き上げるのを冬吾は戸惑いながら感じていた。