遠い約束
第5章 喫茶室の情景 (三)
潤む冴子の瞳に胸を衝かれ、冬吾はさり気なく顔を窓に向けた。
陽は西へと傾き始め、テーブルの一輪挿しの影が長くなった。
冴子の目線を横顔に感じながら、その結婚が知らされた日のことを冬吾は思い出していた。
衝撃だった…
ただただ衝撃としか言いようがなかった。
そして足元の大地が崩れ、果てない底へ墜ちてゆくような生まれて初めての感情に翻弄された。
人づてに冴子の実家の家業が思わしくないことは聞いてはいた。
何かできることはないか、せめて傍にいることはできないか…
当の本人が何も言ってこないものを、こちらから聞き糾すこともできずやきもきしながら時は過ぎていった。
そんな折に届いた知らせだった。