遠い約束
第5章 喫茶室の情景 (三)
相手は実業家だそうだ
考えたくはないが、おそらく何か取引があっての結婚だろう
離れているがゆえに膨らんでしまう勝手な想像に傷ついた
誰にも渡したくなかったのだ
その時初めて冴子への想いを自覚した冬吾だった。
けれど軍人である身は自由に動くことはできず、赴任先の長崎の地から遥か東京へ想いを馳せるばかりだった。
そして冴子からの便りは途絶えたのだ。
あきらめるしかない、と自分に言い聞かせながら時を過ごした。
ただ幸せであってほしい
傷つかないでほしい
悲しまないでほしい
毎朝そう願うことがいつしか冬吾の日課になっていった。