遠い約束
第7章 喫茶室の情景〜遠い約束
「ベルリンへはいつ?」
「明後日立ちます」
穏やかに答える冬吾の声音は冴子の胸に染みる。
「一年の予定ではありますけどこんなご時勢です、長くなるかもしれないし、すぐに帰されるかもしれない」
「でも大使館付きの武官なら安全ですよね」
軍人である自分の無事を願ってくれる…冴子の言葉は冬吾の心を暖かく包んでゆく。
思いがけず深刻になりかけた空気を払うように
「暁子が…娘が最近生意気になって、お母様しっかりなさってよなんて意見するようになったんですよ」
と明るく冴子が言うと
「いいお嬢さんだ。冴さんには傍に付いて支えてくれる人が必要でしょう。頼もしいですよ」
一度だけ会った、冴子に面差しのよく似た女学生の姿を思い冬吾の頬はゆるんだ。
「それは…支えてくれる人は……あなたでは、いけないのでしょうか?」