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501号室

第1章 気になる部屋①

 私は正直なところ、これまで生きてきた四十年間の人生で、ホラー映画だとかミステリサークルだとかいった怪奇・超常現象には全く興味がありませんでした。いえ、興味を持つ云々の前に、そのような話は所詮は眉唾ものであると全く本気にしていなかったのです。
 ところが、です。その私の先入観を全く覆すような出来事に遭遇することになりました。今からお話するのは、私が実際に体験した話であり、作り話でも何でもありません。

 そう、あれはもう今から数えると、十年以上も前のことになります。私が初めての子どもを出産した年のことですから、長女の年の数だけ遡れば良いのです。今ではそのS病院は既に取り壊されてしまっていますが、私はその古い病院で娘を生みました。何しろ、娘が生まれたのは、その病院が取り壊される二ヵ月前のことでしたので、よく記憶しています。
 念のために断っておきますが、このS病院は現在も四十代の優しい先生が熱心に続けておられます。前の古い病院が取り壊されたというのは、何も病院が無くなったわけではなく、全く別の離れた場所に移転することになり、新しく建て替えられることになったというだけのことでした。
 しかし、私が不妊治療に通ったのは古い病院の方でしたし、治療の末、漸く娘を授かったときの歓びは今も忘れられない想い出として残っており、やはり私にとって古いS病院は特別な場所といえるでしょうか。
 妊娠検査薬で陽性が出たその日、私はすぐに病院を受診しました。超音波検査の結果、胎児の姿も確認され、待望の第一子を授かったことが判ったのも、あの古い病院の診察室でのことでした。
 妊娠経過も至って順調で、私は無事に産み月を迎えました。予定日は三月九日、しかもお腹の子は女の子だと判っていましたから、何とか三月三日―つまり女児の節句、ひな祭りに生まれてくれればなどと虫の良いことを考えて、指折り数えながら赤ちゃんに逢う日を愉しみに過ごしていたのです。そして、三月三日の朝、前夜から軽い腹部の痛みが続いていたこともあり、受診、すぐに入院となりました。
 医師によれば、このままいけば、三日の夜には生まれるだろうとのことで、私は陣痛に耐えながら、その瞬間を待つことになりました。

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