テキストサイズ

桜並木を見おろして【ARS・O】

第12章 桜

美術館に着くと、入り口のホールに大野さんがいた。

大野さんはめずらしくスーツ姿で。
シワのよった綿のシャツによじれたネクタイを絞めていた。

大野さんは、私に気づくと手を上げた。

「わお…、さすが着物が似合うね。」

大野さんは、しげしげと私を見つめた。

「入選、おめでとうございます。」

私は深々と頭を下げた。

「や、やめてよ。それもこれも、小春ちゃんのおかげだよ。」

私は、大野さんに案内されて館内へと進んだ。

この公募展は歴史ある展覧会で、若手画家の登竜門となるものらしい。

展示室には、たくさんの絵画が飾られており、たくさんの人で賑わっていた。

「大野先生!」

大野さんは、知り合いの画家たちから幾人も声をかけられていた。

華やかな場だった。

私の知っている、ふにゃふにゃした大野さんは、そこにはいなかった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ