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桜並木を見おろして【ARS・O】

第4章 宴

私は、居間の上座に進むと、中央で静かに膝をついた。

お座敷では、お姉さん方が三味線を弾いてくれるが、今はない。

私は、『祇園小唄』を歌った。



月はおぼろに東山

霞む夜毎のかがり火に

夢もいざよう紅桜

しのぶ思いを振袖に

祇園恋しや だらりの帯よ



舞妓になったら一番に稽古する唄だ。

お座敷でも、定番中の定番。

歌いながら、10年ぶりに舞ってみるとまだ体が覚えていた。

舞い始めると、天から糸で背中を吊られているように背筋が伸びる。

床を擦る足がすべるように運ぶ。

返す手は、指先までピリッとした緊張感で満たされる。

落とした視線は、小唄の世界をだけを見ている。

私は、無になって舞った。

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