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桜並木を見おろして【ARS・O】

第1章 個展

「多摩川には、よく写生に行くんだ。」

大野さんは、隣に飾られていた多摩川の風景の作品を指さした。

それは、広々とした多摩川の夕暮れを描いたものだった。

夕暮れの太陽が水面に反射し、キラキラと輝いていた。

遠くには、川に架かった鉄橋が逆光に照らされてシルエットで描かれている。

「研究所からの帰り道に見る風景なんだよ。」

大野さんの仕事は、美術研究所の講師。
絵画教室を開いたり、美大を受験する高校生に絵を教える先生だ。
講師の仕事と平行して、作家活動を行っているそうだ。

「平日は帰りは夜だけど、土曜日ははやく帰れるから、天気がよければこの夕焼けを見ながら帰るんだ。」

大野さんは、その絵の前の床に花瓶を置いた。

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