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桜並木を見おろして【ARS・O】

第1章 個展

「多摩川の夕焼けを見ると、思い出すんだ。」

私は、大野さんの横顔を見つめた。

「桂川…。美大に通っていた頃を思い出すんだ。多摩川と桂川、ちっとも似てねぇのにな。」

大野さんは、顔を私に向けて笑った。

大野さんは、大学は京都の美大で学んだ。
嵐山にほど近い、桂川のほとりにある美大だ。

「桂川はすぐ西が山だから日が暮れるのが早かったな。」

大野さんは、そういいながら指で鼻の下をこすった。

大野さんは、それから絵を一点一点説明してくれた。

そこに描かれているのは、大野さんが美大を卒業して東京に戻って来てからの、東京の風景や題材だった。

私の知らない大野さんの10年。

それが、ギュッと詰まった作品たちだった。

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