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桜並木を見おろして【ARS・O】

第7章 桜月夜

10年前、大野さんを追いかけて東京に出た。

大野さんに会えるあてもないのに、一目会いたくて。

『あの時は、楽しい時間をありがとう。』

そのひとことを伝えたくて。

10年振りに再会した時は、嬉しかった。

この10年が報われた、そう思った。

でも、芸妓上がりの私にはそれ以上大野さんを求めることはできなかった。

私が東京に逃げて、祇園の置き屋である実家には迷惑をかけた。

母は、花街でたいそう恥ずかしい思いをしただろう。

そんな私が、これ以上大野さんに何を期待するのだろう。

『古い友人』

それで充分だったはずだ。

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